クルマ、脳、ヒトの本質 - ユニークな連携で“Well-beingな社会”の進展を
2020.10.08
自動運転車やスマートホ-ム技術、環境に優しい建物などが集結し、実際に人々が生活するテストベッド(技術検証コミュニティ)であるコネクティッドシティ。自動車メーカーのトヨタがこの都市プロトタイプを発表した時、注目のほとんどはそのデザインやモビリティ―・ソリューションに集まっていた。しかし、2021年に着工されるこのコネクティッドシティやほかの同じような実験コミュニティが成功するかどうかは、テクノロジーではなくバイオロジーに大きく依存するのかも知れない。あちこちに設置されているセンサーや新しいマシンを住民はどのように利用し受け入れるのか、そしてこのような環境が対人関係や生活の質にどのように影響するのか。これらはこれから答が出されていくであろう課題だ。
進化するコミュニティや未来社会の心理的な観点を研究するため、トヨタは自然科学の総合研究所である理化学研究所(理研)の脳神経科学研究センター(CBS)と連携している。2007年に設立された理研CBS-トヨタ連携センター(BTCC)は、心、身体、個人そして集団がどのようにWell-beingを達成し向上しうるか、という問いにその研究の焦点を移しつつある。
脳研究と自動車会社は自然なパートナーには見えないかもしれない。だが、BTCCセンター長の國吉康夫氏は、理研とトヨタは長期的な目標を共有していると言う。「ヒトの性質の深い理解に基づいた“より良い未来の社会”を、我々は創りたいのです。すべてのモノと人が繋がるよう設計された都市で、人々の良い生活や生きるモチベーションを担保できるのか?新しいサービスやモビリティ様式はどのように社会やコミュニティの形成に影響するのか?そして、何が都市を楽しく活き活きとさせるのか?BTCCはこれらのメカニズムを明らかにしたいのです」國吉氏は語る。日本語的にゆるく翻訳するならば、その指針は「脳科学が先導する活気のある社会の実現」である。
これらの抽象的で学際的な問いに挑むにあたり、BTCCは過去のドライビングの研究、脳卒中後のリハビリや脳と身体のつながりの研究などにおける過去の実績を足場にしている。BTCCで既に確立している北城圭一氏と下田真吾氏それぞれが率いる研究ユニットは、脳卒中後の運動や認知機能の回復を評価し、改善する新たな方法を発見したり、脳機能のうち熟練した運転に貢献する因子を研究したりしてきた。
赤石れい氏が率いる新規BTCCユニットは、意思決定の科学を基盤としながら、人が不慣れな状況において、どのように信頼を確立し、良好な関係やコミュニティをデザインできるのかを研究していく。このユニットは、どのように人間と機械や人工知能を調和させることができるのかも同時に研究していく。
今後、3つのユニットはそれぞれの研究の結果や手法を応用し、Well-beingの要素を探求し特定するという、この連携の目標に向かっていく。例えば、筋肉の凝りから集団や社会ネットワークにおける意思決定行動まで、身体および精神の個人差データを集積することで、ヒトのより高次なレベルの感情状態を研究者が予測するのに役立てる。そして、この高次レベルの感情状態の予測によって、今度はコネクティッドシティのようなWell-beingを推進させる良好な環境をどのようにデザインできるのか、についての情報を得ることができる。
「Well-beingには身体の健康からメンタル面、ソーシャル面の健康など、様々な観点がある」と國吉氏は語る。「BTCCが擁する3つの研究ユニットは、これらの観点に個別に焦点をあてて研究し、さらにそれらを統合していきます。Well ‐beingの具体的な測定方法や、基礎研究をより大きなスケールでの成果へとつなぐ具体的な方法を見出だしたい、と我々は考えています」
我々人類がポスト産業社会へと移行していく中で、10年以上にわたり脳科学と工学の融合分野で積み重ねてきた研究実績を武器に、BTCCはヒトの性質を方程式に組み込むという課題に挑むのにうってつけの位置にいるといってよいだろう。
インタビュー&英語原文:Amanda Alvarez