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計算論的集団力学連携ユニット板尾研究員らの国際共同研究チームによる論文" Emergence of economic and social disparities through competitive gift-giving"がPLOS Complex Systems誌創刊号に掲載されました

2024.09.05

計算論的集団力学連携ユニット板尾健司基礎科学特別研究員らの国際共同研究チームは、伝統的な小規模社会に一般的な贈与による交換が社会組織を形成するメカニズムを理論的に説明する論文を発表しました。

https://journals.plos.org/complexsystems/article?id=10.1371/journal.pcsy.0000001

Abstract

これまで人類史上に見られた社会組織にはいくつかの典型的なパターンがあることが知られています。血縁関係に基づくバンド、同胞意識により連帯する部族、社会階層分化が進んだ首長制社会、安定的な王室を持つ王国はさまざまな時代と地域で見られてきました。それでは、これらの社会組織はどのようなメカニズムによって生まれるのでしょうか?本研究では、贈与という相互作用に注目して、これらの社会組織の起源を説明しました。文化人類学者たちはこれまでに、世界中の多くの社会において、宴の席などで贈り物を与えることにより、贈与者が名声を獲得し、受贈者がお返しの義務を課されるという、贈与による覇権争いが見られることを報告しています。この観察に基づいて、各ステップで各人が誰かに贈与をし、受け手が利子をつけてお返しできれば与え手と受け手は対等になるが、できなければ受け手は与え手に従属するというモデルを構築しました。このモデルを利子率と、贈与の頻度を変えてシミュレーションすると、利子率と贈与の頻度の増大に伴い、社会がはじめに述べた、バンド、部族、首長制社会、王国の順に遷移することがわかりました。これにより次のような人類史のシナリオが提示されます。まず人類史の初期には婚姻関係によってバンドが組織されます。そこから人口規模が増し、社会が豊かになると、贈与の相互作用が盛んになって、社会組織が部族、首長制社会、そして王国へと移っていく、というものです。このシナリオは単に余剰生産物によって非労働者を養えるようになるから分業が進むというのではなく、余剰生産物によって促される贈与の相互作用こそが分業を生むメカニズムなのだと考える点で新しい歴史観を示しています。

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