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6/7のBTCC公開シンポジウムで承った質問への回答(前半)

2023.06.19

去る6/7にBTCC公開シンポジウム(オンライン形式)を開催致しましたところ、280名超の方にご参加いただきました。
お忙しい中たくさんの方にご参加いただき、心から感謝申し上げます。
シンポジウム開催中、参加者の皆様よりたくさんのご質問をいただき、一部はトーク後の質疑やディスカッションにおいて回答させていただきました。
時間の都合で回答できなかったものも多数ございましたので、HP上にて回答させていただきます。
シンポジウム内で回答した質問についても改めて内容を掲載しておりますので、ご確認ください。



Q1. 時間が経つにつれて、より寛容的な戦略を取るようになるとは、要は悪いことは時間が経つと忘れる、という意味ですか?

[赤石UL]
2つ意味がありまして、まず悪いことであれ良いことであれ相手がとった戦略というものを忘れてしまいます、それと同時にその人間本来が持っている協力しようという傾向が現れてきているのではないかと考えております。

Q2. スマートフォンが直接的に幸福感低下につながらないとして、幸福感を低下させる社会的・文化的要因は何か調べた研究はあるのでしょうか?

[赤石UL]
今まで行われてきたような研究というのは、スマートフォンが直接的にウェルビーイングなどに影響を与える効果を調べているものなんですけれど、ほとんどの研究で確かに多少小さなネガティブな効果はあるんですけど、直接的な影響の効果というのは小さいということが研究としては出てきています。ただし、この社会レベルとか文化的なレベルで起こっている現象については、かなり継続的なデータの取得であったり、非常にマクロスケールでのデーターの解析が必要になるため、そのような研究はまだほとんど実は行われていないのが現状だと思います。

Q3. 次第にしっぺ返しの回数が減るとおっしゃっていましたが、協力行動が全体に増えてくると、協力に対して協力で返すような回数が増えるのではないでしょうか。それはしっぺ返しと呼ばないですか?

[赤石UL]
正確に申しますと、協力行動が増える確率というのは、特に相手が前回非協力な行動を取った時に、それを忘れて次の時も協力をするというような効果で成り立っていると考えております。

Q4. 信頼をトークン化して、社会スケーリングを図式化出来そうでしょうか?

[赤石UL]
今、そのようなWeb3の技術を利用したスマートコントラクトだったり、トークン化といったものだったり、数値化といったものがあると思いますが、そのようなデジタルテクノロジーを利用した手法というのは非常に有効ではあると考えています。ただし、常に人間の特性だったり、社会や文化の特性と合わせて考える必要があるんではないかと考えています。

Q5. テクノロジーは、もともとあった傾向を増幅させるだけだという考え方はどうですか?

[赤石UL]
恐らくテクノロジーが普及する際に、元々あった傾向を増幅させるとか、それを基にしている方が普及が早まるといった行動があると思います。ただし、それが長期間使われるようになった時に増幅だけなのか、例えば良い効果だけがもたらすのか、もっと悪い効果が長期的には出てきてしまうのかというのは、まだ結論が出ていないのではないかと考えています。

Q6. グループサイズと協力的な行動はこれまでの先祖からの知見の蓄積に裏打ちされたDNAにある可能性はありますか?

[赤石UL]
おっしゃる通り遺伝的な要素があると思います。またそのような傾向が発現するための文化的な条件も重要だと思います。

Q7. 共鳴の大きさは双方の価値観や興味関心によってかわってくるのでしょうか?

[小池UL]
変わると思っています。個体間の共鳴を直接検討したわけではありませんが、映画を視聴した際の脳活動を調べた研究では、仲の良い二人の脳活動はよく類似していることがわかっています。その論文では、この脳活動の類似性は「友達は物事への向き合い方や考え方が似ているから」と考えられています。この結果は、興味や関心を共有しているのであれば、コミュニケーション中の脳活動共鳴が大きくなる可能性を示唆しているように思われます。また二人で同じ行動をしていても、意味もわからず行動をしているのと、意図をよく理解して行動をしている場合では脳活動の違いがあり、それが脳活動の共鳴の差として現れそうです。

Q8. ASDとneurotypicalな人の間ではコミュニケーションに伴う脳の共鳴が弱まるという結果のご紹介がありましたが、ASD者同士では共鳴の具合はどうなるのでしょうか?

[小池UL]
少し古い2012年の研究なのですが、脳の構造(この場合の「構造」とは、情報が流れる経路という意味で、特定の領域の大きさなどではありません)が類似していると、脳活動の共鳴が大きくなることがシミュレーションで報告されています。また映画を視聴した際の脳活動を調べた研究では、仲の良い二人の脳活動はよく類似しており、これは「友達は物事への向き合い方や考え方が似ているから」と考えられています。これらのことを考えあわせると、自閉症者のように社会や他者への向き合い方が定型発達者と違うと人同士の共鳴は高い可能性がありえます。実際、自閉症者間でのコミュニケーションは円滑であるという報告もあります。この点について検討することは、脳活動の共鳴は結局、何を反映しているのかを知るという意味でも大きな意味があることだと考えています。

Q9. 一足飛びですが、共鳴が、個人の社会性形成の促進につながるエビデンスはあるのでしょうか?共鳴→愛着形成→well-beingなど(共同注意の研究から連想されました)

[小池UL]
たとえば「コミュニケーションの初期において共鳴しているほど、そのあとでいいチームになる」というような事象があるかどうかということだと思いますが、それを直接示した研究ないと思います。個人が、パートナーの脳活動の共鳴(相関)の強さを直接的に知る術は無いですから、直接的に共鳴が原因となって社会性が形成されるというよりは、共鳴するような良い二者間の状態が後の社会性形成につながる、という形であればありうるのかなと思っています。

Q10. 行動の共鳴と脳の共鳴のどちらが原因でどちらか結果かという問題をどのように解きます(解きました、解く予定です)か?

[小池UL]
観察研究としては、行動を揃えているが意図が違うような実験はしており、意図が異なる場合には脳活動の共鳴(同期)が異なることはわかっています。よって、脳活動の同期は単なる行動の同期を反映しているわけではない可能性が高いとは思っています。ただし、意図が違う場合に行動が微妙に違っており、それが同期の違いを生み出している可能性は残っています。また、脳活動の同期は、あくまで第三者視点で二人の脳活動を同時に観察した場合に存在しているものです。コミュニケーションに関わる個人が、相手の脳活動と自分の脳活動が同期しているか否かを、直接知るすべはありません。これらのことを考えると、脳活動の同期が行動や感情の同期を反映していることは事実だとしても、脳活動の同期が感情の同期を直接的に生み出している可能性は、低いのではないかと私は考えています。この因果関係について検討する一番ストレートな方法は、磁気刺激などを用いて脳の共鳴を阻害して、行動の変容が起こるかを検討する介入研究です。これについては、5期の後半でチャレンジできればと思っています。

Q11. コミュニケーションも色んな切り口で種類があると思います。勝者と敗者を生み出す議論と、対話とでは生み出される結果が大きく異なる気がしました。そういった観点での共鳴の仕方(well-being)に関する過去研究は存在しますか?

[小池UL]
Competitive(対戦ゲームのような競合)とCooperative(協力してゲームを解く場合)という異なる目的で実験に参加した場合の共鳴を比較し、目的によって共鳴の強さなどが異なることを示した研究はあります。この結果は、同じコミュニケーションでもそれに向かい合う心持ち(目的)の違いが共鳴の違いを生み出すことを意味しそうに見えます。ただ、実は競合と協力では行動のパタンが微妙に異なっており、それが共鳴の強さに反映されている可能性はあると思います。またそのような共鳴の差異が、最終的にWell-beingの差異に結びついているかは、わかりません。

Q12. 共鳴のキューとして、触覚はあり得るでしょうか?触覚デバイスの構築に興味があります。

[小池UL]
コミュニケーション関連で一番ホットな分野が、触覚コミュニケーションだと、個人的には思っています。Affective touchなどで検索していただければ出てきますが、たとえば体が痛い時に背中を摩ったり手を握ってもらうと痛みが減少するような体験をされることはあると思います。このような研究が、実はfNIRSや脳波を用いた二者同時記録では検討されています。例えば恋人が手を握りあい、片方に痛みが与えられるような研究です。ただ残念ながら、私の用いるMRIは、基本的に一人用の装置であるため、これを検討することは難しいところです。抱き合って入るようなMRI装置の研究をいくつか見かけましたが、狭いMRI装置の中で抱き合える相手はかなり限定されるのが難点です。この問題をクリアできるような装置が開発されると、より日常場面に近いコミュニケーションが情動や感情をどのように惹起しているのかを解明する、新しい研究領域が開拓されそうです。

Q13. 脳・神経系の共鳴現象は、生物は進化的にどれくらいの段階で獲得した機能でしょうか?鳥の脳は共鳴したとのことですが、行動を真似るアリの脳・神経状態は共鳴していると言えるのでしょうか?

[小池UL]
相互予測仮説の考えは、「自分の行動に対して相手の反応を予測するという行動があれば、共鳴は起こりうる」という考えです。よってアリが行動するときに、他個体の反応を予想しているのあれば、たとえアリであっても共鳴はなんらかの形で起こっているのではないかと予想しています。

Q14. 共鳴を計測する時、通信としての時間遅れが問題になりそうですが、どれくらいが許容限度とお考えでしょうか?また、実際のコミュニケーションでも、間がとても重要と思いますが、現在のリモート会議などでも遅れが問題になっていると思います。共鳴現象に対して、通信などの時間遅れをどのようにお考えでしょうか?

[小池UL]
まず装置間での時間遅れですが、僕たちはfMRIを用いているので、実はこの点に関してはてかなり楽観的に考えがちです。fMRIの時間解像度が、1秒程度しかないうえ血流(fMRIは血流を測っています)の時間周波数は数秒単位のため、数10msの遅延があったとしても解析上はあまり大きな影響がないからです。ただし脳波で共鳴を定義する場合は、脳波は時間解像度の高い情報を録れることがアドバンテージですから、装置間の時間遅れをよく考慮しなければならないと思います。またコミュニケーションの時間遅れについてですが、経験上、人間は多少の遅延や口の動きと音声のズレについては、補償されてしまい気にせず会話コミュニケーションできてしまいます。ただしZoomの遅延などでも会話の衝突が起こり得るのも事実です。見かけ上は会話できて情報が伝達されているように見えても、実際には負荷が高くなっている・・・そのような現象を、共鳴の多寡で測定することができれば良いと思っています。

Q15.同じ音楽を聴くなどでも、共鳴度合いが向上する可能性はありますでしょうか?

[小池UL]
個人的には、あると思います。同じ音楽を聴いているということは、同じ入力を受け取っているということなので、理論的には共鳴しやすくはなると考えられます。ただ、たとえば同じ音楽を聴きながら作業をする場合には、二人が音楽のタイミングを利用して行動をとることにより、行動の相関が上昇し、結果として共鳴度合いが上がる・・・という、単に行動の相関を反映している可能性もありえます。ただし個人的な感想にすぎないのですが、静かな部屋で映画を見るよりも、僕は映画館で見る方が楽しい気がしています。これはみんなが共鳴していて、共鳴していることを感じられるから・・・などということがありうるのではないかと妄想しています。